DrBulucaniloの日記

独身女臨床獣医の読書感想文

『夜間飛行』 闘うように生きる、すべての人々へ

 

夜間飛行 (光文社古典新訳文庫)

夜間飛行 (光文社古典新訳文庫)

 

 

闘うように生きるすべての人々への賛辞。

 

ストーリーは郵便を届けるために夜間飛行を担うパイロットが暴風雨に遭い、墜落するまでの数時間をパイロット自身、同僚、妻、そして上司の精神的な葛藤と厳しく美しい自然の描写が秀逸。夜間飛行を続けるパイロットとの無線が途絶えたとき、上司は苦悩する。ある人間の命を賭してまで遂行すべき仕事に何の意味があるのか?と。

夜が明けて絶望が色濃く立ち込めてきても、それでも彼は業務を止めず、パイロットと飛行機を空に送り続ける。

 

翻って、わたしもなぜ今の仕事をしているのだろうと考える。犬猫にも本気で攻撃されて蜂窩織炎にもなったし、馬牛だと本当に命の危険も伴うし、結婚適齢期なのに、出会いもなくひたすら動物を診て。。。「そのちっぽけな名もなき命を救おうとすることに何の意味が?いったい何の価値が??」そう言われればそうかもしれない。でもその「たかが小さな命」に何かに突き動かされるように心血を注ぎこめるか、が臨床医というものなんでしょう。

 私たちを突き動かすものの一端が本文と、アンドレ・ジッドによる序文のなかにあります。

 

『生きる者は、生きるためにすべてを押しのけ、生きるために自分の仕組みを作り出す。それは誰にも止められない。…

 

ひとの生に価値がないとしてみよう、われわれはいつも、それ以上に価値の高いなにかがあるようにふるまっているのだから…。だが、その何かとは何なのか?…おそらくは救うべき別のなにか、より永らえる何かが存在するのだ。

おそらくは人間のその領域に属するものを救うために、リヴィエールは働いているのではないか。』

 

序文アンドレ・ジッド

ひとは自己のうちに最終的な目的を見出すことはない。何であるかがわからないままに従い、犠牲を払うこと、それが人を支配するのだ、それが生きることだ。

「わたしは人間を愛しているのではない。人間をむさぼり尽くすものを愛しているのだ。」』