DrBulucaniloの日記

独身女臨床獣医の読書感想文

『知性とは何か』佐藤優

 

知性とは何か(祥伝社新書)

知性とは何か(祥伝社新書)

 

 

私たちの世の中に対する見方は自分の脳みそで考えて居ると思っても、必ず他者が意図的に発している情報の影響を受けている。政治や国際情勢の報道にしろ識者の意見にしろ、情報を発信している当事者の自覚の有無を問わずある事実を情報として発信するときは何らかのバイアスが入ると思う。そしてぼうっとテレビや新聞を読んでいるだけでは他人の意見がそのまま自分の意見として刷り込まれてしまいがち。かくいう自分もある出来事に対して自分なりに解釈・反芻し意見を持つことがなかった。

考えるトレーニング、そして無数の「情報」のなかで何が事実で何が発信者の意見であるか判別できるようになるきっかけにあればと購入した。

この本では、現在日本では「反知性主義」が蔓延しており今後これが加速していれば大きな過ちに達してしまう可能性があり、これを理解・回避するために「知性」を身に付けることが必要だと説いている。具体的に「反知性主義」とは何なのか、過去の歴史的な出来事や国内で現在進行形の出来事を絡めわかりやすく書かれている。さらに、どのようにすれば知性を身に付けることができるのか、事実の捉え方や具体的な読書術も示されている。

特に印象的だったのは下記の文章だ。

反知性主義とは、「実証性や客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度」である。新しい知見や他者との関係性を直視しながら自身と世界を見直していく作業を拒み、「自分に都合のよい物語」の中に閉じ籠る姿勢だ。ーこういう反知性主義者が問題を引き起こすのは、その物語を使うものがときに「他者へ何らかの行動を強要する」からだ。-物事を理解するときに二つのアプローチがある。「現象論」と「存在論」だ。現象論とは、われわれの目の前に見える出来事をとらえていくというアプローチだ。存在論とは、目に見える現象の背後にある、目には見えないが確実に存在する事柄をとらえるためのアプローチだ。-愛も信頼も友情も確実に存在している。-目には見えないが、確実に存在する人間の心の動きを、客観性、実証性、合理性よりも重視し、お互いの心を理解することができる共同体が形成されるならば、そこでは他社の心を無視してて自分が欲するように世界を理解するという態度が取れなくなるので、反知性主義が付け入る隙もなくなる。」

 

この「存在論」、実際には目に見えない信頼や愛などといったものを理解するためには自己が確立されていなければできない。自分の欲しいものは何なのか、望みは何なのかがはっきり自覚できていなければ信じることはできない。私にはまだトレーニングが必要だ。